ここがパンチライン!(本とか映画、時々 新聞)

いま、物語で大事なのはあらすじではない。そこで語られている言葉とリアリティだっ!!ということで、卑怯で弱い人間を愛したい。人間の野蛮さ、愚劣さから目を背けたりしたくない。おのれ自身の端緒(根っこ)が絶えず更新されてゆくそんな経験をする、そのための記録。大江健三郎と吉田修一と。三島と太宰と。村上春樹と中村文則、小島信夫と舞城王太郎。カズオイシグロにミシェル・ウェルベック。カーヴァーとチャンドラー、ブコウスキーにキューブリック。コッポラにデビット・フィンチャー。ウディ・アレンもケヴィンスペイシーも。談志だって

小説 

『忍ぶ川(三浦哲郎)』

60年、芥川賞受賞作。 二人の姉は自死、兄が失踪、下の兄は信頼されていたが家族親戚から金を借り後逐電、などつらい経験を持つ学生が料亭で働く自分にとっての100%の女性に思い詰め、心通わす。 村上春樹作品(やたら人が死ぬという点でノルウェイ限定か…

『この人の閾(保坂和志)』

小田原での人との約束時間まで少し時間があったので、大学時代のサークルの友だちと久しぶりに会おうという話。その、きまぐれ感、なんとなくな設定はこの人の小説そのものだ。 「ふうん。 三沢君って、昔からけっこうヒューマニスト的なところがあったわよ…

『伸予(高橋揆一郎)』

83年6月が一刷である。 第79回芥川賞受賞作品。 「芥川賞に偏差値をつける」という書籍で知った。 高橋揆一郎。カッコイイ名前。 伸予。元女教師。たって戦前は、って話。 30年ぶりに、惚れた教え子と会う。自ら自宅に招いて。 積極的な女である。 今だっ…

『細雪(下)』

幸子の心情描写が多い巻。 姉妹の何気ない会話が醍醐味だろう。 女とは、仕事もせずに家にいると、細かいところまで言葉を交わしているのか、と感心するほどである。 ちなみに、作中トピック箇条書きという野暮なことをするとすると、 ◆ 帝国ホテルにアメリ…

『細雪(中)』

こいさん(末の妹 妙子)をメインにした巻ですね。 奥畑の啓坊の花柳界遊びの噂。妙子洋行の目論み。 大水で九死に一生。英雄板倉の妙子救出。 啓坊への不信と板倉への気持ち。 男の入院、脱疽、死。 と要点書き出すと、なんのことはないつまらなさですが。 …

『フラニーとズーイ』

村上春樹訳。 フラニー編がすごい好きだ。 世の中の、自分の回りの何もかもがクソばっかに思えて、気に入らないときってのは確かにある。 それは、彼氏や恋人であっても、当然その例外じゃない(何なら、恋人なんて分かり合えない存在の最たるモンだ) ここ…

『細雪(上)』

谷崎である。細雪である。 この歳になって、日本の小説、否、近代文学の素晴らしさがよく分かるようになってきた。日常や生活に垣間みる、心情と風雅の機微(言語化)。 新しいものではなく、古くて今でも残っているものを繰り返し読むべきだ、そう思うよう…

「しんせかい(山下澄人)」

第156回芥川賞が、山下澄人氏の「しんせかい」に決まった。 我々「勝手に芥川賞選考会」では、二番目に評価の低い作品だった。 「これが受賞したら抗議文送ろうぜ」とまで言っていた作品だ。 正直、驚いている。 今回の候補五作は前回と比べても意欲作が…

『宇宙を織りなすもの(上) ブライアン・グリーン』

喫煙所でタバコ吸ってたら関連会社の兄ちゃんが、この分厚い本読んでた。 文学ばっかりやってる俺たちも、全然気にならないわけじゃない。 宇宙について。 難しい計算やモデルの解説ぬきで、宇宙や量子について分かりやすくアプローチする。 著者の態度は生…

『宴のあと(三島由紀夫)』

1960年、実在の人物をモデルにした小説とされる。 発表後、訴えられる。 初の「プライバシー権」対「表現の自由」の対決だった。 福沢かづ。雪後庵。野口雄賢。永山元亀。選挙参謀山崎。佐伯首相。奉加帳。 (畔上輝井。般若苑。有田八郎。1959年都知事選。…

『プラットフォーム(M・ウェルベック)』

性的な充足をセックス産業から得ていた僕。 旅行会社でキャリアアップを重ねていた恋人との性的耽溺。 セックス観光のある企画によって、かれらは絶望的な夜に遭遇することになった。 僕は礼儀正しく、真面目で、上司からも同僚からも評価されている。しかし…

『微笑(小島信夫)』

戦地から復員してはじめて、四歳になった息子と出会った。 僕がはじめてじぶんの息子にめぐりあったのは四年ぶりで戦地から復員した時で、僕は自分の息子であるというより、何か病気の息子であるようなかんじにおそわれた。 僕はそうしながら、痺れるような…

『濹東綺譚(永井荷風)』

荷風荷風っと、日々の記録である断腸亭日乗よりもこちらっの方がこの人のしょーもなさが感じ取れる(私は永井荷風のことを面白い人だとは思うが、昨今の巷の評価のように“粋”だ“洒脱”な江戸人だと云って、いたづらには称揚したくはない)。 あと、木村荘八の…

『憂国(三島由紀夫)』

心中、それが一番美しいと三島は云った。 おそらく現代人には分からない感覚だろう。 「死んではダメだ。自死は罪深い、ましてや誰かを巻き添えに死ぬなんて愚かだ」まっとうな現代人はそう言うだろう。 しかし、それは平和な時代を生きているわたしたちの標…

『はっとする1行 出会いたい』井上荒野、角田光代、川上未映子(7月31日付 朝日新聞)』

三人の作家の「読んだ小説の魅力を逃さないために」。 さすが、みな第一線の作家。 言葉が有り体でなく、実感もちゃんとこもったものだ。 角田さんも学生時代の自分と重ねて「20歳くらいの頃は読んでいるものが限られているから、小説とはこんなものだと思っ…

『マチネの終わりに(平野啓一郎)』

恥ずかしながら、平野作品も初めてだった。というのも、いたづらに難解で高尚文学の印象があったから。そういうものは古典に任せようという態度でいたのだ。 作家エージェンシー コルクの佐渡島さんらの仕事(平野担当?)ということで、これはきっと大した…

『ジニのパズル(崔実 チェ・シル)』

会社の先輩と「勝手に芥川賞選考会」というものを実施した。 根津のモダン純喫茶「カヤバ」にて(本物は築地の新喜楽)。 それぞれに候補作を読み込み、採点、批評していった。 体裁や文章や小説としての上手さでは低い得点だったと思う。 しかし、候補作の…

『美しい距離(山崎ナオコーラ)』

「貫禄」という言葉がふさわしいのだろうか。 候補作品の中では(やはり)一番上手いと思った。 だって5回目のノミネート。いいかげんなんとかしてくれといった具合だろうか。5回目ともなると、いちいち版元の編集担当と待ってもいないと思う。残念会とい…

『あひる(今村夏子)』

第155回(16年夏 7月19日決定) 芥川賞候補作。 「勝手に芥川賞選考会」での講評と、ここ(ブログ)での”いい悪い”はもちろん判断基準とそのレベルが異なる。「勝手に選考会」の3人の選考委員のうち、この作品に×をつけた委員は2人いた。彼らは端的に「…

『短冊流し(高橋弘希)』

第155回(16年夏 7月19日決定) 芥川賞候補作。 会社の先輩から勝手に「芥川賞選考会」をやると言って社内便で送られてきたので読む。図らずもナオコーラの同じ候補作品と同じ場面や状況の設定があった。それも時代か。 子どもの不調から始まる暗くて短い…

『鍵のかかる部屋(三島由紀夫)』

怪物 罪というものの謙虚な性質を人は容易に許すが、秘密というものの尊大な性質を人は許さない。 弘子のあけすけな欲望は、人が本心を隠してものを言う時のような誇張された闊達さで言われたからである。 それが不条理な判断を迫るのである。この嬰児は私た…

『伯爵夫人(蓮實重彦)』

15上の先輩から、ある日、社内便で新潮 四月号が回ってきた。 巻頭の小説にふせんがしてあり、面白いから読めという。 読むとぶったまげた。間違いなく、今年一番、面白くインパクトがあった。 後日、新聞でこれが三島賞エントリーしたと聞く。 受賞は間違…

『勝手にふるえてろ(綿矢りさ)』

はじまりの一文はこう。 とどきますか、とどきません。 いつのまにか致すときは鳴らすのがマナーになった音姫、おそらく日本の女子トイレでのみ起きている不思議な現象。 しかしいまや音姫はマナー化して、鳴らさないとむしろまわりに聞かせたい変態かと思わ…

『金閣寺(三島由紀夫)』

幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。 さて、若い英雄は、その崇拝者たちよりも、よけい私のほうを気にしていた。私だけが威風になびかぬように見え、そう思うことが彼の誇りを傷つけた。 それでもなお、私が関与し、参加したという確かな感じが消…

『私の消滅(中村文則/文学界6月号)』

(文藝春秋ではなく、文学界の巻頭。相も変わらず、物語の向かうのは、徹底的に不快な方向性) 父が母を叩く音が続く。母の短い悲鳴。私はドアの前でただ立っていた。銀のドアノブが、暗がりの中でぼんやり光って見える。ドアは、酷く薄く頼りなかった。開け…

『コンビニ人間(村田沙耶香/文学界6月号)』

村田沙耶香の小説は初めてだった。 芥川賞候補作品が発表される前に読んだので、同賞選考のスタンスでは読まなかった。 業界的には、いま一番取らせたい人なんだろうが、キャラクター造詣や世界観にいささかエンタメ感が滲む(例えるなら、読後感が”世にも奇…

『暁の寺(三島由紀夫)』

豊穣の海 の三作目。 本多の別荘 本を取り去った突き当たりの壁には小さな穴が穿たれている。 清顕と勲については、かれらの人生がそういう水晶のような結晶を結ぶのに、いささかの力を貸したという自負が本多にはあった。 (いまや金持ちである本多の性癖 …

『アンナ・カレーニナ 下 (トルストイ)』

ドリイは反駁しなかった。彼女は急に、自分がアンナとはもうあまりに遠く離れてしまったのを直感し、ふたりのあいだにはもうけっして意見の一致することのない、したがって口に出さないほうがいいような疑問が立ちはだかっているのを感じたのであった。 子供…

『アンナ・カレーニナ 中 (トルストイ)』

(中巻では、リョーヴィンの農業否、労働を基にした人生哲学の開陳を、アンナは夫との離別、およびこの恋が本当の愛なのかの猜疑と葛藤を、カレーニンは不得意な感情生活と向き合い、次第に冷めていく妻への愛を語り。この選択は正しかったのか、私を彼を幸…

『アンナ・カレーニナ 上 (トルストイ)』

幸福な家庭はすべてお互いに似通ったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。 オブロンスキー家ではなにもかも混乱してしまっていた。 キチイはヴロンスキーがワルツに誘うのを待っていたが、ヴロンスキーは誘わなかっ…

『鍵のかかった部屋(P・オースター)』

オースター作品の中で一番好きな小説だ。 NY三部作の一つだというが、ストーリーテリングが洗練されていて、 内面ミステリの教科書のように感じられる(もちろん教科書テキストのように退屈で凡庸なものではない)。 書き出しはこうだ。 いまにして思えばい…

『文章讀本(谷崎潤一郎)』

(駿河台下の角、古い雑居ビル) 口語文といえども、文章の音楽的効果と視覚効果とを全然無視してよいはずはありません。 大人は小児ほど無心になれないなれないものですから、とかく何事にも理窟を云う、地道に練習しようとしないで、理論で早く覚えようと…

『巨怪伝 〜正力松太郎と影武者たちの一世紀〜(上)』

59年6月25日に行われた、天覧試合の回想からはじまる。 天覧試合は全生涯を賭けた最後の夢。 遡る三十六年前の大正十二年、警視庁警務部長だった勝利機が、テロリストによる摂政宮の狙撃、いわゆる虎ノ門事件の警護責任をとって免官に追い込まれていた。 正…

『命売ります(三島由紀夫)』

元々68年にプレイボーイ上で連載していたものが、版元が新装した帯をきっかけに昨年売れた三島作品。 「三島由紀夫」という名前と、「極上のエンターテイメント」という売り言葉の掛け合わせでみんな買わされたんだろう。 三島由紀夫の優れた小説を知って…

『いやな感じ(高見順)』

売春宿の女にホレそうで嫌だ。 初恋だ。身請けしよう。みたいな冒頭シーン。 火の玉みたいな向こう見ずな男がテロリストとして、女に惚れっぽいが、身を立てようとする。 基本的には、女郎屋とか淫売屋が、生活の中にある文化。 戦争と、政治と、血があるの…

『淵の王(舞城王太郎)』

舞城作品において、映画でいうと予告編に使われそうなやヴァイシーンはサイズが崩れる。言葉も崩れて、どがががががががががががあああみたいな文字列を見ると、ゲシュタルト崩壊的感覚を抱かされて気持ち悪くなる。 この作品のクライマックスシーンに、ガン…

『地図と領土(M=ウェルベック)』

写真家のち画家、ジェド。 芸術と女性との別れ。 友人であり、作家ウェルベックの死。 そして、愛への、友人への、父の生、自らの人生への諦め。 沈黙が続いていたが、父がそれを破りたがっている様子はまったくなかった。 こういう家族のあいだの会話という…

『悲しみのイレーヌ(ピエール・ルメートル)』

主人公はカミーユ・ヴェルーヴェン、司法警察の中年警部。 過去の犯罪小説になぞらえられた殺しの数々。 漏れる捜査情報、新聞紙面化される捜査の進展。 忍び寄る悲劇の予感。 内部の疑心暗鬼と、捜査チーム内の裏切り。 序盤から、妻の妊娠が不吉の暗示とし…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)』

どんな映画でも本でも、個人がパッケージにアクセスしやすい時代になった。 録画機に何本もの映画や映像を貯め、amazonで小説が1円で売りに出されている。 いつでも安く視られるというその意識環境は、文芸や映画の旬というものを失わせている。作られて間も…

『ダンス・ダンス・ダンス(下)』

三人の消えた娼婦と一人の俳優と三人の芸術家と一人の美少女と神経症的なホテルのフロント係。 (女房に出て行かれて、北海道のホテルを訪れたくて、受付の女性と出会って訴えかけられるものがあって、ホテルに泊まっていた少女の東京帰り付き添いを託されて…

『ダンス・ダンス・ダンス(上)』

学生の頃から、読むのは何回目か。 さすがに、ロレックス、港区、メルセデス、経費、高度資本主義社会、、そういったシミュラークル的名詞に古びた印象を受けた。 そりゃそうだ。古びなきゃおかしい。30年も前に書かれたの小説なのだ。 自分に対するこの作…

『わたしたちが孤児だったころ(カズオイシグロ)』

こんなにも明白はタイトルなので、説明されないと(あるいはしっかり予測を立てないと)そのタイトルが持ってくる意味がわからない。ましてやこの人の小説なら、何かがあるのだ。 彼の小説は、「人間がもっている幼少期の記憶の曖昧さ」に根ざしている。誰も…

『暗室(吉行淳之介)』

孤独と性愛の調べ。 最小限の、引用に留める。 曖昧なものに一応具体的な形を与えておきたかった。 ときには際どい冗談を言い合う仲だが 津野木との間には、危険なものが沢山ある。 「いけないね、人生にたいしてそんなに消極的になってはいけない」そういう…

『スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介)』

フリーター、25歳、健斗。 実家で同居するじいちゃんは、身体も思うようにならなくることが多く「はやく迎えにきてほしい」と弱音ばかり吐くようになっている。 薬漬けの寝たきりで心身をゆっくり衰弱させた末の死を、プロに頼むこともできないのだ。 湯温…

『あなたが消えた夜に(中村文則)』

冒頭の夢の話(あるいは昔から悩まされる悪夢や光景)は、この人のお約束だ それは主人公の罪悪か性的な原体験である事が多い 彼は刑事である。 大きな事件や連続殺人で捜査本部が設置されると担当所轄と警視庁の人間が一緒に動く 警視庁の女性刑事小橋さん…

『職業としての小説家(村上春樹)』

かなり正直に誠実にお話しされています。 この人のついて、いまさなどう言うでもないです。 これを読んでまた村上春樹の小説が読みたくなった。それだけです。 ・・・多くの学生と同じように、その運動のあり方に幻滅を感じるようになりました。そこには何か…

『テロリストのパラソル(藤原伊織)』

[主人公の人物造形] ・小さなバーのバーテンやってる・メニューはホットドックだけ(めちゃうま)・アル中でウィスキーばっか飲んでる・若い頃、学園闘争の縁で前科あり・ピンチのときこそ軽口たたく・気が強い女が好き(当時も娘も)[話のあらあら筋]・公園…

『火花(又吉直樹)』

文藝春秋、受賞作掲載号 なるべく先入観を排して、読もうと思っていた。とりわけ最近、文春の役員の方と知り合ったこともあり、「プロモーションとしてではなく、時代と文芸者の評価がしっかりなされた受賞だと思いたい」という点もあったからだ。 まあそも…

『恋する原発(高橋源一郎)』

もう、とにかく小説をポップにする人。ちんことかまんことかダッチワイフとか使い過ぎ。政治的な主張や思いを、AVにくるんで徹底的に戯画してふざけて描く。 徹底的にポップな舞台立てに、真理や”ほんとう”を打ち立てるのは容易じゃない。ただ、その構造物…

『奔馬(豊穣の海・第二巻/三島由紀夫)』

三島の文章の美しさは、その心象と個人の意識を描き切り、卓越した表現で言い得ているところだ。そんな細かな機微をよくぞ言葉にしたな、といった具合に。 純粋性や無垢な精神の表象は、不純なものがなく洗練されて美しい。 父の密告 ↓留置場で射精 ↓俺は愛…