『デブを捨てに(平山夢明)』
登場人物は金がない。社会の底辺。日雇いかその日暮らしだ。
稼ぎか食い物のために、奇天烈な人間たちに関わって悪に関わる。
性と暴力に遠慮がなく、描写もグロテスク。
乾いたユーモアと設定のシュールさが、癖になる。
また、メタファーが簡潔にして言い得ている点もいい。
まだすっかり世が明けたというには暗かったので、おれが覗き込むとそこには赤ん坊のようなピンク色の乳首が陰毛のような胸毛の隙間から覗いていた。
「このアンテナに、あんたのアンテナをぴったりくっつけさえすりゃ、後は自然とエニシングゴーズさ」
おれはクリスマスの靴下の中に<参考書>を発見したような顔になり、それは奴にも伝わったんだな。
キャラメルは、ひと箱百円だった。
証拠品として事務机の上にあるそれを女は何度も見つめ<さて、どうする>と何度も呟いた。仕事は?家族は?家は?友だちは?親は?とおれが持ってないものばかり尋ねられるので困ったが、それでも答えられるだけは答えた。つまり、<ないよ>と云った。
おれは頷き、殴られる用意をした。
途端に頬の辺りが鳴り、口の中で歯と歯が大きな音を立ててぶつかり合った。首が変な方向に捻れ、おれはたたらを踏んだ。
自分が唾を飲み込む音が大きく聞こえた。
「いんちき小僧」「マミーボコボコ」他、収録。