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ここがパンチライン!(本とか映画、そんでときどき新聞の)

いま、物語で大事なのはあらすじではない。そこで語られている言葉とリアリティだっ!!ということで、卑怯で弱い人間を愛したい。人間の野蛮さ、愚劣さから目を背けたりしたくない。おのれ自身の端緒(根っこ)が絶えず更新されてゆくそんな経験をする、そのための記録。大江健三郎と吉田修一と。三島と太宰と。村上春樹と中村文則、小島信夫と舞城王太郎。カズオイシグロにミシェル・ウェルベック。カーヴァーとチャンドラー、ブコウスキーにキューブリック。コッポラにデビット・フィンチャー。ウディ・アレンもケヴィンスペイシーも。談志だって

『あなたが消えた夜に(中村文則)』

小説  批評・評論  創作のヒント 

 

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冒頭の夢の話(あるいは昔から悩まされる悪夢や光景)は、この人のお約束だ

それは主人公の罪悪か性的な原体験である事が多い

彼は刑事である。

 

大きな事件や連続殺人で捜査本部が設置されると担当所轄と警視庁の人間が一緒に動く

警視庁の女性刑事小橋さんとぼくは一緒に動く

小橋さんは、美人だが、しょっちゅう何か食べていて(おっさんが好きなものを)、寝癖とか立ててる天然異能系。IQ180でといった天才ではないが、とにかく運が良いという意味で"持っている"し、本気っぽい冗談をいうところ、スペックでいうトーマか


小橋サンの「自転車をひく犯人を尋問するときの身体の置き方」みたいな部分で、この子は判っているなあと僕は感心し、信頼を置く



昔、僕が逮捕した強盗犯・野川。 

その頃、何だかずっと映像が浮かぶようになりまして、どこかに強盗に入り、取り押さえられて『離せ』『離せ』と言っている自分の映像。・・・そこが地の底のように思いました。金がなくて強盗に入る、というチープさが良かった。堕ちて行った先にある、見事なまでに安い絶望。自分の人生を、滑稽なまでに自分で破壊する快楽、人々が大切にする人生というものを侮蔑する快楽・・・。ははは、だから動機はこうれですよ。強盗に入り、『離せ』『離せ』と言いたかったから!ははは!」

 

彼の述懐が、この作者の考える”悪意”みたいなものをうまく表現している

「〜。あなたたちの言う調書では、人間の堕落の不思議は語れない。裁判だって同じ。ありふれた事件として報道されるでしょう。人間の堕落の真実はいつも表層に隠される。真実はいつも、人々が望むようなわかりやすさの中で語られる。」

 

一人殺したい奴がいるのです。
…あの通り魔事件が起こった時にね、やるなら今だと思いましたよ

 
マスコミや捜査の類推から、あったかもしれない可能性は提示されるが、読者はそれでミスリードされることになる


「あなたは土台が揺らいでいる」(私たちを同じ臭いがする)

主人公の僕が抱えている、犯罪者野川に罪の原体験を指摘される

 

小橋サンのこの間こんなことがあったエピソードは、あたかもこの物語全体に立ちこめた悪意の暗示のよう。

「この間、電車でお婆さんに席を譲ったんです。そうしたらそのお婆さん、私の目を見て『うわあ偽善者』って言ったんですよ」
しかも『偽善者の心を満足させるために、はあ・・・、仕方ないわね。座ろうかしら』って言ったんですよ。 

 

本庁ー所轄という捜査本部の溝や軋轢は、捜査主体を団結させ一枚岩にしない(ねたみや裏切り、情報の捜査やかく乱がある)という点で、物語を複雑で豊かなものにする。


「三部」の手記で、明らかにされる事は多い。

・犯人の行動原理と事実

・男と寝ずにはいられない女の魔性

・母が仕組んだ父との禁忌

・殺人者の手記

 

犯罪真理と捜査において、個人の抱えた問題と交換させるという手法を援用することで、とこれまでの中村文則作品よりも、悪意サイクルやノワール一辺倒に終始しないとっつきやすい構造になっていた。

また、小橋さんの人物造形とエピソードなど、エンターテイメント要素が少なからぬ発見された。

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