『ダンス・ダンス・ダンス(下)』
三人の消えた娼婦と一人の俳優と三人の芸術家と一人の美少女と神経症的なホテルのフロント係。
(女房に出て行かれて、北海道のホテルを訪れたくて、受付の女性と出会って訴えかけられるものがあって、ホテルに泊まっていた少女の東京帰り付き添いを託されて、警察にある女(高級娼婦)の殺人を疑われて、映画で出てきた同級生にアプローチしたら妙に響き合うものがあって、少女とハワイでのんびりして、返ってきたら親友が殺していたことがわかった。最期、ホテルの受付の女性(ユミヨシさん)に会いに行く)
「そういうのを放っておくと体の中でどんどん膨らんでくることがある。」
気にする男も世間にはけっこう沢山いる。世界はまだまだマッチョなんだ。
物は豊富にあるのに、欲しいものがない。金は幾らでも使えるのに、本当に使いたいもののためには使えない。綺麗な女は幾らでも買えるのに、好きな女とは寝られない。
そして僕は首を振った。首を振ったって何も解決はしないのだけれど。
「愛が欲しい。ねえ、大変なことを君に打ち明ける。僕が寝たいのは女房だけだ」
「皆様、私が今寝たい相手は女房だけです、ってね。」
ねえ、いいかい、ある種の物事というのは口に出してはいけないんだ。
口に出したらそれはそこで終わってしまうんだ。身に付かない。
友人を崖の上から押した。僕は猫を何匹も殺した。いろんなやり方で殺した。郵便ポストに火のついた布を入れて燃やした。夜中に近所の台所の窓にパチンコで石をぶつけて割った。
マセラティが芝浦の海から引き上げられたのは翌日の昼過ぎだった。予想通りだったから、僕は驚かなかった。
「あなた私を求めているのね?」
「とても激しく」と僕は言った。
僕のメッセージは上手く現実の空気を震わせることができるだろうか?いくつかの文句を僕は口の中で呟いてみた。そしてその中からいちばんシンプルなものを選んだ。
「ユミヨシさん、朝だ」と僕は囁いた。