ここがパンチライン!(本とか映画、ときどき新聞)

物語で大事なのはあらすじではない。キャラクターやストーリーテリングでもない。ただ、そこで語られている言葉とそのリアリティこそが重要なんだ!時代の価値観やその人生のリアリティを端緒端緒で表現する言葉たち。そんな言葉に今日も会いたい。

『少数派からのありがとう 高橋源一郎 (2014年5/29 朝日新聞朝刊)』

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14年3月、台湾の立法院が数百の学生によって占拠された。

陸中国と台湾の間で市場開放に関して交わされた「中台サービス貿易協定」への反対。学生たちは、規律と統制を守りつつ、院内から国民に向けてアピールを続ける。

占拠が20日を過ぎ、学生たちの疲労が限界に達した頃、立法院長から魅力的な妥協案が提示された。葛藤とためらいの気分が、占拠している学生たちの間に流れた。その時、ひとりの学生が、手を挙げ、壇上に上り「撤退するかどうかについて幹部だけで決めるのは納得できません」といった。
この後、リーダーの林飛帆がとった行動は驚くべきものだった。彼は丸一日かけて、占拠に参加した学生たちの意見を個別に訊いて回ったのである。

最後に、林は、妥協案の受け入れを正式に表明した。すると、再度、前日の学生が壇上に上がった。固唾を飲んで様子を見守る学生たちの前で、彼は次のように語った後、静かに壇上から降りた。
「撤退の方針は個人的には受け入れ難いです。でも、僕の意見を聞いてくれたことを、感謝します。ありがとう」

 それから、2日間かけ、院内を隅々まで清掃すると、運動のシンボルとなったヒマワリの花を一輪ずつ手にもって、学生たちは静かに立法院を去って行った。

 

この小さなエピソードの中に、民主主義の本質が浮かび上がったようだった。だが民意はどうやってはかればいいのか。結局のところ、「多数派」がすべてを決定し、「少数派」は従うしかないのだろうか。学生たちがわたしたちに教えてくれたのは、「民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、それでも、『ありがとう』ということのできるシステム」だという考え方だった。