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ここがパンチライン!(本とか映画、そんでときどき新聞の)

いま、物語で大事なのはあらすじではない。そこで語られている言葉とリアリティだっ!!ということで、卑怯で弱い人間を愛したい。人間の野蛮さ、愚劣さから目を背けたりしたくない。おのれ自身の端緒(根っこ)が絶えず更新されてゆくそんな経験をする、そのための記録。大江健三郎と吉田修一と。三島と太宰と。村上春樹と中村文則、小島信夫と舞城王太郎。カズオイシグロにミシェル・ウェルベック。カーヴァーとチャンドラー、ブコウスキーにキューブリック。コッポラにデビット・フィンチャー。ウディ・アレンもケヴィンスペイシーも。談志だって

『ジニのパズル(崔実 チェ・シル)』

勝手に芥川賞選考会 小説  批評・評論 

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会社の先輩と「勝手に芥川賞選考会」というものを実施した。

根津のモダン純喫茶「カヤバ」にて(本物は築地の新喜楽)。

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それぞれに候補作を読み込み、採点、批評していった。

体裁や文章や小説としての上手さでは低い得点だったと思う。

しかし、候補作の中で一番、熱や思いがあったのがこの作品だった。

 在日朝鮮人の心中を語る出来事やモチーフとしてはさほど新しいものはないが、それでもやはり今の時代に(ヘイトや移民問題、つまりは帰属意識としてのナショナリズムについて)即応した問題意識やリアリティが感じられた。

 多感の時期の学生がいじけた調子がキャッチャーインザラインのホールデンっぽかったり、個人として革命思想をどう体現させるかみたいな部分はワクワクした。明らかに文学の萌芽である。おそくら受賞作はこの作品だろう。

 

いつもそうだった。一言告げただけでも、言葉の裏側を掬い取るようにして、理解を秘めた瞳で見つめる。特に、複雑にねじ曲がったような人の言葉に、深い理解を示した。でもマギーの凄いところはそこじゃない。何かを察しても、マギーはそれを決して言葉にしなかった。誰のことも、肯定もしなければ否定もしない。いつだって、ありのままを受け取った。だから、私はマギーのことは本当に大好きだった。

 

 

『私も学校にいたくないな。あなただけよ。飽きずにこうして紙に書いて、やりとりしてくれるのは。他の子は、普通の人は、こんな面倒くさいことしたくないのよ』

 

 

 

「ジニ」

校長が名を呼んだ。多分、私の名だと思う。いや、私の名で間違いはない。

「何か言いたいことはあるかい」

校長は机の上で組んでいた両手を広げながら言った。ハリウッド映画でも観ている気分になった。ちょうどハリウッド映画には飽きていたから、尚更ガッカリした。

残念だ、という顔を隠すことなく、私はしっかりと二度、首を横に振った。

 

 

 

 俯いているのは雨のせい。誰もが、そんな顔をしていた。彼等は、正しいのかもしれない。こんな空の下を、何食わぬ顔で歩く人たちに、人生に目的があってたまるか。

 

 

「まるで不幸せな顔をしている人間は間違いだ、みたいな雰囲気がとにかく嫌いだった。なんだか不自然な気がしてさ。 〜〜 中 略 〜〜  

 

歪んだ性格と言われればその通りだし、何も言い返す言葉なんてないけどさ。さあ、笑いなさいって言われて、笑える人間が気持ち悪いと思ったんだよ。あそこは、自分で言うのも変な話だけど、私みたいなへそ曲がりの人間にとっては地獄でしかないよ」 〜〜 中 略 〜〜  

 

楽しんでるかい、っていちいち確認されるのも嫌いだわ。

 

 

 

「でも色々あって。本当に,色々あってね。朝鮮学校の校舎に飾ってある金日成金正日肖像画を取り外して、叩き落して割った後に,ベランダから投げたんだ」

 

 

いつか誰かが言っていた。よく笑う人間は、沢山傷付いた人だと。

 

 

 

まあ、これは朴さんのような人の話ですね、と付け加えた。クラス全員の視線が私に向けられた。私はどうしていいかわからず、舌を出してへらへらと笑ってみせた。 

 

 

出会い方が違っていれば褒めてやりたくなるほどのーー見事な無視をした。私はかっとなった勢いで,思わず舌打ちをしてしまった。その女たちは三人でつるんでいた。三人共、ほぼ同時に私の方を振り返り、睨み付けてきた。私は反射的に、そのポニーテールが酷く似合う馬のケツみたいな顔をした三人に向かって、何見てんだブス、と言ってしまった。

 どうしてそんな事を言ってしまったのか。私は態度はデカイが小心者だった。だからその時は、心臓なんて破裂しそうなほどどきどきしていた。 〜〜 中 略 〜〜  

しかし、私もあちらも納得できず、最後まで和解の握手はなされなかった。それどころか、面倒くせえな、と私はしつこく何度も舌打ちした。高校生に相手にしてもらえて舞い上がっていたのかもしれない。

 その日の放課後、私は帰り道で十人くらいの女子高生に囲まれていた。すぐに今日の調子づいた態度を後悔した。

 

 

一刻も早くチマチョゴリを脱いで安心したいという気持ちの方が強かった。

 

 

 

太陽が西へ沈みかけていた。多分、西だと思う。

 

 

 

「そうです。でも、私は中学の先生しか知りません。もしかしたら高校の方に、その先生がいるのかもしれないですけど、でも,私は知りません」

 そう言った直後だった。私は倒れそうになったのを窓ガラスに手をついて何とか持ちこたえた。何があった。左頬が蜂に刺されたように熱くなっていた。視界がぼやけている。

ーー殴られた?

そうだ。私は今,殴られたのだ。窓ガラスに反射しているゲームセンターの明かりが眩しい。私はそっと姿勢を元の位置に戻し、真っ直ぐに立上がった。

  〜〜 中 略 〜〜  

「やっぱりなあ。そうだろう。朝鮮人なんて所詮その程度だよ。心が汚ねえ、なあ」

 男は怒りをあらわに、左手で首を絞めたまま、今度は反対の手で押し潰すように私の胸を掴んだ。私はショックのあまり大量の息を吸い込み、むせたような咳をした。激痛が走った。耳元に気色の悪い息を吹きかけられながら、私はただただ泣いた。

 勝てない。こんあ腐った奴に,私は勝てないんだ。

 

 

「聞いてる?」

「なに?」

「私、実は、革命家の卵なんだ」

「なに,突然。バカバカ、パーボー!」

 

 

二人の金の肖像画を外して放り投げる、革命のベビーステップ。

 

もう一回読も。

 

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追記:

8月7日付 朝日新聞朝刊書評面 星野智幸氏、評

勇気あるデビュー作である。「苦しい時は私の背中を見なさい」とチームメイトに言った、女子サッカー澤穂希種のような存在の小説だ。