ここがパンチライン!(本とか映画、ときどき新聞)

物語で大事なのはあらすじではない。キャラクターやストーリーテリングでもない。ただ、そこで語られている言葉とそのリアリティこそが重要なんだ!時代の価値観やその人生のリアリティを端緒端緒で表現する言葉たち。そんな言葉に今日も会いたい。

『ミシマの警告 〜保守を偽装するB層の害毒〜』適菜収

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冒頭、一行目。

結論から言うと、もうダメでしょうね。日本は。

 完全に腐ってる。

はー、一行目から適菜節全快です。

 

問題意識は以下の2点。

・「保守」が急速に劣化した。

・メディアが用意した「正論」にしがみつく思考停止した人たち(B層)。

 

まずきちんと定義することが大切です。保守とは何か。ひとことで云えば、「人間理性に懐疑的であるのが保守」です。

抽象的なものを警戒し、現実に立脚する。人間は合理的に動かないし、社会は矛盾を抱えていて当然だという前提から出発する。

 

世の中は複雑で矛盾に満ちています。簡単に答えを出せない問題はたくさんあります。それを二項対立に落とし込み、白黒はっきりさせようとするのがB層です。

 

保守主義イデオロギーはありません。イデオロギーがないーこれが実は保守主義の要諦なのです(江藤淳)。

保守主義イデオロギーを警戒する態度である。江藤は「保守主義とは一言でいえば感覚なのです」と簡潔に述べた。

 

「いい悪いの前に、異物がきたらまず追い返す」。この感覚が保守である。 

 

ロベスピエールは「最高存在の祭典」を開き、“ 理性により社会を合理的に設計する ” ことを宣言。「神が存在しないなら、発明する必要がある」と理性は万能のものとして祭り上げられた。その結果、フランス革命後、自由は自由の名の下に抑圧され、社会正義と人権の名の下に大量殺戮が行われた。

 

小さいことを軽視すれば、「アリの穴から堤防が崩れるように」人間は崩壊する。

 

三島は、“生活の細目ということから行動規範を見つけ出す”という考えで、---いちばん手もとにある、箸の上げおろしから、盃の持ち方、そういうことからモラルをみつめていって、それが美しいか美しくないかということから、こうすべきだ、ああすべきだということになり、最後に死へもっていっているという感じがしまして、いまの人たちの道徳観とぜんぜん逆みたいですね(『葉隠』の魅力)。 

 

神秘よりも事実を、可能なものよりも現実のものを、(オークショット) 

 

保守とは歴史に対する真っ当な態度、生活の姿勢である。<常識>を大切にするということです。

 

反共というところで思考停止することで「保守」は劣化してきた。

 

冷戦下において、保守主義者と自由主義者は手を組みました。

保守主義の本質を忘れ、自由主義こそが「保守の本質だ」などと言い出すバカが増えた。冷戦が終わり、「大きな敵」を見失ったことで、なにがなんだかわかんなくなってしまった。

 

アメリカでは自由を神格化することが保守になる。 

 

変化自体を拒絶するのではなく、変化によって得られるものと喪われるものを慎重に確認する。

 

「精神の豚」が暴走を始めた。

 

保守が伝統を重視するのは、個々の事例における先人の判断の集積と考えるからです。

 

未来社会を信ずる奴は、みんな一つの考えに陥る。未来のためなら現在の成熟を犠牲にしたっていい、いやむしろそれが正義だ、という考えだ。

未来社会を信じない奴こそが今日の仕事をするんだよ。(「東大を動物園にしろ」)

 

今日の仕事に完全な成熟というものを信じられないのではなかろうか。或いは自分一個の現実性も信じられないのではないか。自分は過程ではないのだ。道具ではないのだ。(「日本の歴史と文化と伝統に立って」)

「未来に夢を賭ける」のは弱者の思想である。

 

 

 見た目や隣人の意見を参考にして判断する。価値判断ができないからです。 

 

 

安倍晋三について。安倍政権が保守のはずはない。典型的な構造改革論者でグローバリスト。

・「自民党はに二〇〇九年十二月十六日に民主党政権の政治主導に対して緊急提言をまとめ、国民のものである憲法を一内閣が恣意的に解釈変更することは許されないとしたが、安倍政権は解釈変更した」とフランス人記者の指摘に逆ギレ。

・移民政策を推進

・「累次にわたる国連決議に違反をしたのはイラクでありまして、そして、大量破壊兵器がないことを証明出来るチャンスがあるにもかかわらず、それを証明しなかったのはイラクであったということは申し上げておきたい。(二〇一四年五月二十八日)」いわゆる「悪魔の証明」問題ですね。挙証責任は当然イラクにはありません。

 

 

 

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保守を自認する新聞社の世論調査。巧みな心理操作が問い分の中に隠されている。

 

 

人間の判断は万能ではありません。

だから、慎重にものごとを決める仕組みが必要なのです。

権力は必ず暴走する、民主権力の集中は必然的に全体主義に行き着く。

だから、それを制御するシステムが必要なんです。

 

参議院がおかしくなった理由は戦後憲法で民選(公選)にしてしまったからです。

・そもそも多数決原理で<良識>を持つ人を選ぶという発想がトチ狂ってると思いませんか 

 

石原はきわめて戦後民主主義的なポピュリストであり、卑劣なアナーキストである。こうした人間を支持してきたのがわが国の「保守」論壇である。そのカラクリについても、はるか昔に三島は見抜いていた。

 三島は自民党に所属しながら党の批判を繰り返す石原に対し、「貴兄の言葉にも苦渋がなさすぎます。男子の言としては軽すぎます。」(士道について)と批判した。

 

全体主義は一枚岩のイデオロギーではありません。

アレントも指摘するとおり、そこには構造がない。煽動する側と煽動される側が一体となり拡大していく大衆運動です。

 ---正常な社会は、橋下みたいな人間が出てきたときに、すぐに「うさんくさいな」と判断できる。

 

ニーチェは人間の感覚器官が生み出す世界こそが唯一の世界だと言います。真の世界などどこにも存在せず、人間の脳が生み出すイメージの体系こそが世界と呼ばれるものであると。ニーチェは真理を否定したのではありません。「真理とされてきたもの(神らしきもの)」を否定したのです。

あらゆる真理は、表層に表れる。概念の暴力により、現実を見失ってはならない。

ニーチェキリスト教発生以前の古代ギリシャに健康な文化を見出しました。

 

多くの人は、概念にしがみつき、現実を直視することができません。

ニーチェは「理性」「抽象概念」「イデオロギー」を疑えと言った。

  

 

 

この人(適菜収)の主張には見るべきものがあると思うけど、権力を執拗なまでにこきおろす調子とディスりがインフレ化していて、さながらネット上に跋扈する政治クレーマーに堕してしまっている。表現としては逆効果だと思う。