ここがパンチライン!(本とか映画、ときどき新聞)

物語で大事なのはあらすじではない。キャラクターやストーリーテリングでもない。ただ、そこで語られている言葉とそのリアリティこそが重要なんだ!時代の価値観やその人生のリアリティを端緒端緒で表現する言葉たち。そんな言葉に今日も会いたい。

『細雪(下)』

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幸子の心情描写が多い巻。

姉妹の何気ない会話が醍醐味だろう。

女とは、仕事もせずに家にいると、細かいところまで言葉を交わしているのか、と感心するほどである。

 

ちなみに、作中トピック箇条書きという野暮なことをするとすると、

◆ 帝国ホテルにアメリカへ行く井谷の送迎品を買いに。皇記2600年祭(1940年)で大いにホテルが混む。

◆ 人目に触れぬよう妊娠したこいさん有馬温泉に匿う。

◆ こうやってみんな出て行くんだな、寂しい。とか思いながら、幸子の下痢はその日も止まらずに汽車に乗ってからもまだ続いていた。 で、小説が閉まる。

 

彼女は、自分がつい昨日も、あの時から引き続いて何回目かの見合いをしたところであり、今日はその帰途であることを思い、もしその事実をこの男が知ったらと思うと自ずから身が竦むような気がした。それに生憎と、今日は一昨日とは違って、余りぱっとしない色合いの友禅を着、顔の拵えも至って粗末にしているのであった。

→かつてお見合いで振った相手に対する見栄とか、さもありなんと面白く。

 

私は自分の身内からそう云う妹を出したことを恥らしく思います。蒔岡家に取ってもこの上ない不名誉です。聞けば雪子ちゃんまでがこいさんの味方をして、今度のことも私たちに知らせる必要はないと云ったとか。

 

 

幸子はまずいことになったと思った。雪子の電話嫌いは一族の間でも有名になっているので、

 

断るにしても尤もらしい口実を構えて言葉上手に断ったのならまだしもであるが、どうせそんな芸当の出来る人ではないので、さぞ不細工に、取って付けたような挨拶をしたことと思うと、幸子は何がなしに口惜し涙が溢れて来た。そして、眼の前に雪子を見ていると一途に腹が立って来るので、ぷいと階下へ降りて行って、テラスから庭へ出た

 

 

 雪子さんにああ云う態度を取らして置く幸子さんの気持が分からない、今時華族のお姫様だって、宮様だって、あんなでよいと云う法はないのでに、いったい幸子さんは自分の妹を何と思っているのだろうかと、丹生夫人は云っていた

 

 

その、どんよりとした底濁りのした、たるんだ顔の皮膚は、花柳病か何かの病毒が潜んでいるような色をしていて、何となく堕落した階級の女の肌を聯想させた。

 

 

ただ何処までも、自分の肉親の妹をそんな不良の女であると思いたくなかったこと

 

 貞之助は妻のそう云う子供じみた所作に何年ぶりかで接した気がしたが、夫婦は云わず語らずのうちに、もう十何年前になる新婚旅行当時の気分に返っていた

 

 

今月は二千六百年祭でいろいろの催しがございますので、雑誌の方も相当忙しゅうございますの、

 

ーーー観艦式の明くる日が、大政翼賛会の発会式、それに靖国神社の大祭も始まっておりますし、二十一日には観兵式もございますし、今月の東京は大変なんでございますのよ。

 

「わたくし、実は顔のシミのことも申しましたのよ」

 

 

幸子たちは十二時前に此処へ来たのに、やがて二時になってしまい、五時と云う今夜の会に間に合うかどうか心もとなく、二度と再び資生堂なんかへ来るものではないと、腹立たしさを怺えながら苛々していたが

 

 

「雪子ちゃん、よう覚えとき。ーー大安の日なんかに知らない美容院へ行くもんやないで」と、幸子は口惜しそうに云った。

 

 

 妙子は安楽椅子の腕の上に横顔を載せ、どろんとした眼を幸子に注いで、

「うち、多分二三箇月らしいねん」

と、いつもの落ち着いた口調で云った。

 

 

(幸子:)普通の思いやりがあるのなら、旅行中は何があろうとも辛抱し、家に帰って精神的にも肉体的にもあたしが平素の落ち着きを取り返した頃を見計らって、徐ろに打ち明ける、と云う風にすべきではないか。・・・

 

 

そう云えば、昔幸子が貞之助に嫁ぐ時にも、ちっとも楽しそうな様子なんかせず、妹たちに聞かれても、嬉しいことも何ともないと云って、きょうもまた衣えらびに日は暮れぬ嫁ぎゆく身もそぞろ悲しき、と云う歌と書いて示したことがあったのを、図らずも思い浮かべたが、下痢はとうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからもまだ続いていた。

 

 

 

(解説)

(戦中当局により言論弾圧の中) 関西の上流中流の人々の生活の実相をそのままに写そうと思えば、時として「不倫」や「不道徳」な面にもわたらぬわけには行かなかったのであるが、それを最初の構想のままにすすめることはさすがに憚られたのであった。

 

 

 

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