『異論のススメ -貨幣で思考 衰える文化-(佐伯啓思・9/1付朝日新聞)』
ドイツの文明史家オスヴァルト・シュペングラー
われわれの行動のほとんどあらゆる結果を、利潤や費用対効果といった数値的成果主義と貨幣の統率のもとにおいている。学校や行政でさえも成果主義に浸食され、利益の上がらない地域の商店街は崩壊する。
数字で示された経済成長を追求するために、政府は技術革新を支援し、経営は徹底した効率主義のもとにある。これは、現代人の典型的な思考形式になっているといってよいだろう。
都市に欠けているものは、人と土地との内的な結合であり、人と財との密接な結びつきである。
それに代わって、すべてが、貨幣という数値的な価値で評価され、「貨幣をもってする思考」へと抽象化される。その最たるものが金融市場で、それは世界中の都市をつないでゆく。
だから、文明とは、伝統や人格が意味を失い、すべてを貨幣に換算しなければ意味を持たない文化段階をいうのだ。そして、デモクラシーとは、貨幣と政治権力との結合の完成である、と彼は述べる。