『西部邁さんを悼む -絶えず問うた 生への覚悟-(佐伯啓思)』
西部さんが絶えず問いかけたのは生への覚悟であった。お前は何を信条にして生きているのか、それを実践しているのか、という問いかけであった。
その意味で、彼ほど、権力や権威や評判におもねることを嫌った人を私は知らない。
あらゆる社交の場に彼が求めたのは、場をわきまえた礼儀や節度である、公正の感覚であった。決まりきったような党派的意見や個人的な情緒の表出をもっとも嫌っておられた。そしてそれをわきまえぬ者に対する批判の手厳しさは、時として場を凍りつかせることはあっても、正しいのは常に西部さんなのである。
西部さんは、チェスタントの次の言葉をよく口にしていた。
「一人の良い女性、一人の良い友、ひとつの良い思い出、一冊の良い書物」、それがあれば人生は満足だ、と。