ここがパンチライン!(本とか映画、ときどき新聞)

物語で大事なのはあらすじではない。キャラクターやストーリーテリングでもない。ただ、そこで語られている言葉とそのリアリティこそが重要なんだ!時代の価値観やその人生のリアリティを端緒端緒で表現する言葉たち。そんな言葉に今日も会いたい。

『空気の研究(山本七平)』

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「それは簡単なことでしょう。まず、日本の美徳は差別の道徳である、という現実の説明からすればよいと思います」

 

私は簡単な実例をあげた。それは、三菱重工爆破事件のときの、ある外紙特派員の記事である。それによると、道路に重傷者が倒れていても、人々は黙って傍観している。ただ所々に、人がかたまってかいがいしく介抱していた例もあったが、調べてみると、これが全部その人の属する会社の同僚、いわば「知人」である。ここに、知人・非知人に対する明確な「差別の道徳」をその人は見た。これを一つの道徳律として表現するなら、「人間には知人・非知人の別がある。人が危難に遭ったとき、もしその人が知人ならあらゆる手段でこれを助ける。非知人なら、それが目に入っても、一切黙殺して、かかわりあいになるな」ということになる。この知人・非知人を集団内・集団外と分けてもよいわけだが、みながそういう規範で動いていることは事実なのだから、それらの批判は批判として、その事実を、まず、事実のままに知らせる必要がある、それをしないなら、それを克服することはできない。私がいうのは、それだけのことだ、と言った。 

 

みなはそうしているし、自分もそうすると思う。ただし、私はそれを絶対言葉にしない。

 日本の道徳は、現に自分が行っていることの規範を言葉にすることを禁じ手おり、それを口にすれば、たとえそれが事実でも、”口にしたということが不道徳行為”と見なされる。

 

そして米軍という相手は、昭和十六年以来戦いつづけており、相手の実力も完全に知っていること。いわばベテランのエリート集団の判断であって、無知・不見識・情報不足による錯誤は考えられないことである。

 

「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である。

 

 

人はそれを感ずるから「空気」と表現したに相違ない。従って、この空気に対抗して論争した論説を、その空気が消え去った後で読むと、その人びとが、なぜこんなに一心不乱に反論していたかが、逆にわからなくなってくる。

 

 

一方明示的啓蒙主義は、「霊の支配」があるなどと考えることは無知蒙昧で野蛮なことだとして、それを「ないこと」にするのが現実的・科学的だと考え、そういったものは否定し、拒否、罵倒、笑殺すれば消えてしまうと考えた。ーーー「空気の支配」を決定的にして、ついに、一民族を破滅の淵まで追い込んでしまった。戦艦大和の出撃などは“空気”決定のほんの一例に過ぎず、太平洋戦争そのものが、否、その前の日華事変の発端と対処の仕方が、すべて“空気”決定なのである

 

 

周恩来曰く「言必信、行必果」(これすなわち小人なり)

「やると言ったら必ずやるサ、やった以上はどこまでもやるサ」で玉砕するまでやる例も、また臨在感的把握の対象を絶えずとりかえ、その場その場の“空気”に支配されて、右へ左へと一目散につっぱしるのも、結局は「言必信、行必果」的小人だということになるであろう。

 

 

だが非常に困ったことに、われわれは、「言必信、行必果」的なものを、純粋な立派な人間、対象を相対化するものを不純な人間と見るのである。

 

われわれの社会は、常に絶対的命題をもつ社会である。「忠君愛国」から「正直者がバカを見ない社会であれ」に至るまで、常に何らかの命題を絶対化し、この絶対性にだれも疑いをもたずそうならない社会は悪いと、戦前も戦後も信じつづけてきた。

 

天皇制」とは何かを短く定義すれば、「偶像的対象への臨在感的把握に基づく感情移入によって生ずる空気的支配体制」となろう。天皇制とは空気の支配なのである。

 

 

「あの場の空気では、ああ言わざるを得なかったのだが、あの決定はちょっとネー...」といったことが「飲み屋の空気」で言われることになり、そこで出る結論はまた全く別のものになる。日本における多数決は「議場・飲み屋・二重方式」とでもいうべき「二空気支配方法」をとり、議場の多数決と飲み屋の多数決を合計し、その多数で決定すればおそらく最も正しい多数決ができるのではないかと思う。

 

聖書とアリストテレスで一千年鍛錬するとアングロサクソン型民族ができるといわれるが、

 

少なくとも明治時代までは「水をさす」という方法を、民族の智慧として、われわれは知っていた。

 

日本とはそれで十分な世界であった。そしてこの世界の仮装の西欧化には大きな危険があるのは当然であった。

 

 

 

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