「人生案内_負の感情ばかりの自分(回答者:いしいしんじ)」(2021年5月16日 読売新聞)
人生案内の回答者にいしいしんじが加わってくれてうれしい。
数少ない、読売新聞を読むモチベーションになりつつある。
今回はそのいしいしんじさんに、30代女性会社員の相談。
高齢の両親と障害のある姉の面倒を自分の少ない給料で面倒見なければならない。
容姿も悪く、結婚というものは早々に諦めたが、ときどきどうにもならない辛い気持ちに襲われ、自分の人生との折り合いをつけられない。どう折り合いをつけたらいいか、という相談。
高齢の両親だけならまだ、「贅沢はないがつつましく最低限度の年金暮らしで過ごしてもらい、たまの親孝行に努めれば」くらいに考えることができるけど、知的障害のある姉の存在も彼女のネガティブな思考を引っ張る。
自らの人生に対し、弱気になってしまっても仕方ない状況ではあると思うが いしいしんじさんの回答はどうだったのか。
あなたはたえず、皆のことを気にかけながら、じつは皆の存在に支えられてもいる。
出会いはふとしたことかもしれない。ただ、あたなが本気で求めるなら、どんなささいなことだって、終生あなたを支えてくれるしなやかな杖となりうる。
ひとりで生きることと孤立とは違う。
金魚鉢でも画布でも、あたなはこの世の中心を自ら選ぶことができる。
その中心から、あなた自身のいのちを、ふくよかに伸ばしていくことができる。
金魚を愛し、慈しみ、ともに生きる青年が。
年老いて絵を描くことに喜びを見出し、死ぬまでキャンバスに向かい続けた女性の横顔が。
いしいしんじの小説的世界観が立ち上がってくるかのようだ。
言葉が、受け手の将来的風景さえ育んでいる。