ここがパンチライン!(本とか映画、ときどき新聞)

物語で大事なのはあらすじではない。キャラクターやストーリーテリングでもない。ただ、そこで語られている言葉とそのリアリティこそが重要なんだ!時代の価値観やその人生のリアリティを端緒端緒で表現する言葉たち。そんな言葉に今日も会いたい。

『ファミリーレス(奥田亜希子)』

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朝井リョウだか誰だかが薦めていた若手作家ということで手に取った。

いろんな家族の形、六篇からなる。

物語の進行のために登場人物にわざわざ言われている台詞があったり、無理に小説(風の表現、あるいは文語的紋切りと言おうか)にしようとしている不自然さが気になった。

 

 

1.プレパラートの瞬き

 グチとか悪口を云わない奴は省かれるゾって実感が私たちにはある。その場の雰囲気に合わせてそこにいない人間の悪口を言わなかったり、それに参加しようとしなければ場では浮き、ときに場を白けさせる。ある種の同調圧力が存在する。

 誰かを悪く言うことにはそれに関わってもいいときと、関わりたくないときがある。悪く言われることになる相手との関係性があるからだ。人がひしめきあい集団で社会を営んでいる我々には、グチや悪口がなくなることはない。それらとの付き合い方を個々がどう決めているか、興味深いところだ。

 

俊二の言葉には質量があった。意味や気持ちがめいいっぱい詰まっていて、つまりは本物だと、そんなふうに思っていた。美味しそうに美味しいと言い、楽しそうに楽しいと言う。それは意外と難しいことだ。

 

 

グチが多く、口の悪いシェアメイトの友人に「私」が合わせられるとしたら、誰かを強烈に悪く言いたいとき、言って欲しいとき。

人を悪く言わないように教育を受けてきた希恵は、最も悪く言いたくない相手は家族に他ならない(はずだ)。


#妊娠というもののある種の不可抗力性

 

 

 

 

2.ウーパールーパーは笑わない

寝取られならぬ、妻と別れ子と話された男の冴えない日常話。

娘にちゃん付け、合う度に何か買ってあげるも娘に(あるいは元妻に言い聞かされて)お金の心配される始末、別れた後もたまに会う時間に遅れる、

 

僕が愚かであることは、僕が一番知っている。

 

 

 

3.さよならエバーグリーン

中学に上がって冴えない俺。小学校のときはよく喋った東伊織里ともなかなか話す機会がない。

#小学生のときのように、教室中を笑わせることはもうない。

目立つ奴らが伊織里にかまってる。僕は行動を起こせない。冴えない僕なんかにそんな権利はない。

こういうとき、キープレイヤーは家のなかにいる。何を言っているかわからないひいばあちゃんだ。

 

 

 

 

 

 

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『忍ぶ川(三浦哲郎)』

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60年、芥川賞受賞作。

二人の姉は自死、兄が失踪、下の兄は信頼されていたが家族親戚から金を借り後逐電、などつらい経験を持つ学生が料亭で働く自分にとっての100%の女性に思い詰め、心通わす。

 村上春樹作品(やたら人が死ぬという点でノルウェイ限定か)となぞらえる人もいるようだが、全然違う。一遍一遍が希望に溢れたすっげーいい終わり方するし。

 

 

志乃をつれて、深川へいった。識りあって、まだまもないころのことである。

 

 

錦糸堀から深川を経て、東京駅へかよう電車が、州崎の運河につきあたって直角に折れる曲がり角、深川東陽公園前で電車をおりると、志乃はあたりの空気を嗅ぐように、背のびして街をながめわたした。

 

 

私と志乃は、その年の春、山の手の国電の駅近くにある料亭<忍ぶ川>で識りあった。私は、忍ぶ川の近所にある学生寮から東京の西北にある市立大学に通う学生で、三月のある夜ふけ、寮の卒業生の送別会の流れにまじって、はじめて忍ぶ川へいったのである。

 

 

「せっかちでなければ、袖になしか。」

女はくすっとわらった。

「お人によります。」

「俺は、どうだ。」

 

 

 

志乃はふいに口をつぐんで、足もとを見ながらあるいた。

「本村さんは、どうしたの?」

「あたしを、ほしがりだしたんです。」

私はぼおっと頬がほてり、胸がはげしく動悸をうった。

「それで?やったのか。」

「やるもんですか。」

 

 

 

私たちの全身はたちまちのうちに汗ばんだ。その夜、志乃は精巧につくられた人形であった。そして、私は、初舞台をふんでわれを忘れた、未熟な人形遣いであった。 

 

 

 

 

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『百人一首がよくわかる(橋本治)』

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固ッ苦しくない解説で百首読ませる橋本治式。

日本人として、覚えておくべき○首を任意で抽出しました。

 

 

 

秋の田の かりほの庵の とまをあらみ

 わが衣手は 露にぬれつつ   天智天皇

(刈り入れ小屋は ぼろぼろで)

 

 

 

春すぎて 夏来にけらし 白妙の

 衣ほすてふ 天のかぐ山   持統天皇

 

 

 

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の

 ながながし夜を ひとりかも寝む   柿本人麻呂

 

 

 

田子の浦に うち出でてみれば 白妙の

 富士の高嶺に 雪は降りつつ   山部赤人

 

 

 

奥山に もみぢ踏み分け 鳴く鹿の

 声聞くときぞ 秋はかなしき   猿丸大夫

 

 

 

天の原 ふりさけ見れば 春日なる

 三笠の山に 出でし月かも   安倍仲麻呂

 

 

 

わが庵は 都のたつみ 鹿ぞ住む

 世をうぢ山と 人は云うなり   喜撰法師

(たつみ=東南)

 

 

 

花の色は うつりにけりな いたづらに

 我が身世にふる ながめせしまに   小野小町

(ひとりでぼんやりしている間に)

 

 

 

これやこの 行くも帰るも 別れては

 知るも知らぬも 逢坂の関   蝉丸

(「これが?あそう」歌舞伎『勧進帳』では冒頭で唄われる)

 

 

 

ちはやぶる 神代もきかず 竜田川

 からくれないに 水くくるとは   在原業平朝臣

(こんなに真っ赤に水を染めるのか!?)

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月みれば 千々にものこそ 悲しけれ

 我が身ひとつの 秋にはあらねど   大江千里

(「悲しい」は胸に迫ってくる感情。いろんなことを感じさせられてしまう。おおえのちさと)

 

 

 

名にし負はば 逢坂山の さねかづら

 人に知られで くるよしもがな   三条右大臣

 

 

 

 

有明の つれなく見えし 別れより

 暁ばかり 憂きものはなし   壬生忠岑

(その夜一緒だった女がつれなかったからだ、なのか

 夜明けになると別れたままの女が思い出されてつらい なのか)

 

 

 

ひさかたの 光のどけき 春の日に

 しづ心なく 花の散るらむ   紀友則

 

 

 

 

 忍ぶれど 色に出にけり わが恋は

 ものや思うと 人の問うまで   平兼盛

(なにかあるの?と人がきくほど)

 

 

 

恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり

 人知れずこそ 思ひそめしか   壬生忠見

(恋してるらしいと、私の名前は囁かれるようになってしまった)

 

 

 

逢ひ見ての 後の心に くらぶれば

 昔はものを 思わざりけり   権中納言敦忠

(実際に やった後から 比べれば

 昔はなにも 知らなかったな!)いいなあ、この訳..

 

それか(ああ好きだ また遭いたい!)

 

 

 

遭うことの たえてしなくは なかなかに

 人をも身をも 恨みざらまし   中納言朝忠

(セックスがこの世になければ こんなにイライラしないだろうさ!)

 

 

 

もろともに あはれと思へ 山ざくら

 花よりほかに 知る人もなし   前大僧正行尊

(一緒にさ 感動しようよ 山桜

 花のほかには 誰もいないし)

 

 

 

瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の

 われても末に あはむとぞ思ふ   崇徳院

(流れ落ち 岩に砕ける 滝川さ

 別れはしても 最後はまた会う)

 

 

秋風に たなびく雲の 絶え間より

 もれ出づる月の 影のさやけさ  左京大夫顕輔

(秋風に たなびく雲の 切れ間から

 もれてる月の 光はくっきり)

 

 

 

ながらへば またこのごろや 偲ばれむ

 憂しと見し世ぞ 今は恋しき   藤原清輔朝臣

(生きていけば よく思えるのか 今のこと

 いやだと思った 昔も恋しい)

 

 

 

嘆けとて 月やはものを 思はする

 かこち顔なる わが涙かな   西行法師

(「泣けとでも云うのか月は」と思っちゃう

  文句の多い オレの涙さ)

※坊主は悩まないのか、「いやそうではないぞ」と西行登場

 

 

 

そろそろ会社行かな... 続く。

 

 

 

 

百人一首がよくわかる | 橋本 治 |本 | 通販 | Amazon

『すーちゃん(益田ミリ)』

 

女の子とのなんとなく思うこと、感じたこと、しちゃったこと。

を言葉にしている漫画(というよりエッセイ)だな。


こういうことを最近仲良くしているコピーライターの子とかと酒飲みながら話したい。

「一冊読み終えたあとなんとなく.表紙をながめます いい本だったな」とか...。

 

 

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不倫してるんだけど、当たり前に寂しくしていて傷ついていて、心がねじまがってる自分に感じつつなんとかしたいと思ってるまいちゃんとか

 

 

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女の世界では当たり前にしていること(男たちは実に無頓着で、こういうことに全く鈍感なこと、あるいは別にOSで考えているので導き出される対処が正反対であること)など

 

 

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つつましくもたしかに自分の足で生きている現代女性(的なリアリティとか)

 

 

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若い頃に自分がやられて嬉しかったことを自分が上になったといにやってあげるところとか

 

 

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世の中の男の小さく、つまらないところとか...

 

 

 

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日々の生活のなかの、ほんの一瞬のちょっとした後悔とか...

 

 

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『書く力 -私たちはこうして文章を磨いた-(池上彰・竹内政明)』

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確かに、読んでいて「あまり面白くないな」と感じてしまう文章は、ほとんどの場合、厳しい言い方のようですが、構成に工夫が足りないとか、表現力が足りないとかいう以前に作者自身が「自分はこれから何を書くか」をはっきりとわかっていない。だから工夫のしようもない、あるいは工夫の仕方がズレている状態におちいってる気がします。

 とにかく「書くべきこと」をはっきりさせる。

 

 

自分の小さな経験から入る。身の回りを描きながら、地球の裏側で行われたオリンピックという大きな話題につなげていく。

 

「わかりにくい文章を書いている人は、その物事についてよくわかっていない」と考えています。自分でも内容を十分に理解できていないから、文章が整理できない。

 

自分が本当に分かっていることを、自分の言葉で書くというのが基本です。

 

 

土地の中学生の一団と、これは避暑に来ているらしい都会の学生の一団とが擦れ違った。海辺は大方の涼み客も引揚げ、暗い海面からの波の音が急に高く耳についてくる頃であった。擦れ違った、とただそれだけの理由で、彼らは忽ち入り乱れて決闘を開始した。驚くべきこの敵意の繊細さ。浜明りの淡い証明の中でバンドが円を描き、帽子がとび、小石が降った。三つの影が倒れたが、また起き上がった。そして星屑のような何かひどく贅沢なものを一面に撒き散らし、一群の狼藉者どもは乱れた体型のまま松林の方へ駈けぬけて行った。すべては三分とかからなかった。青春無頼の演じた無意味に無益なる闘争の眩しさ。やがて海辺はまたもとの静けさにかえった。私は次第に深まりゆく悲哀の念に打たれながら、その夜ほど遠い青春への嫉妬を烈しく感じたことはなかった。 

井上靖「海辺」

 

 

「手垢のついた表現」と「ベタな表現」は違いますね。

甲子園球児が宿舎で夕食のトンカツを<ぺろりとたいらげた>式の「手垢のついた表現」には読み手との交感がない。そう書いておけばラクだから、という思考停止の産物でしょう。

 

 

「なになにの被害者を見るやにわかに劣情を催し、同女をその場に押し倒し、強いて姦淫したものである」

 

 

・「こだわる」という言葉の使い方。本来的な意味は固執してはいけないときに固執してしまうこと。

 

 

 

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『すべての男は消耗品である(村上龍)』

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誰かの批評本で、村上龍の著作で読むならこれ、みたいなスタンスで書いてあった。

「限りなく透明にちかいブルー」の発表前タイトルである「クリトリスにバターを」よろしく、このひとはコピーライティング的センスがあるようだ。

タイトルからして、ほとんど小説みたいにして、平成29年のいま読むべきものである。

 

男は、制度的に父親になるしかない。女が他の動物と同じように、生物学的に母親になれるのとは決定的な違いだ。

 

 

本当は、男は結婚を拒否したいのだ。どんなに好きないい女であっても、結婚をしないですむ方法はないかと考える。

 だけど、してしまう。

 なぜか?

 制度だからだ。制度をバカにしてはいけない。制度は強力だ。この世の中の、ほとんど百パーセントのことがらが、制度を支える装置としてある。

 制度に対抗するのは極めて難しい。男はきっと対抗できない。だが、制度というものは、あたりまえの話だが、嘘である、幻想である。人間が勝手に作ったものだ。必然性などはない。動物に制度は存在しない。動物に比べて人間は不完全だから制度を確立したのだ。

 

うんこを食べるために自分の女に一週間、フルーツだけを食わせるスカトロジストもいるそうだ。

 

 

兵隊は、男だ。最大の消耗品である兵隊は、男なのだ。銃後も悲惨だろう。とくに負け戦では空襲もあるし、大変だと思うが、男はもっと悲しいのだ。

 

 

制度には、意味はない。快楽を得ようと思えば、リスクを負って、制度の外へ立つしかないのだ。

 

 

 

オレがずっとロマンと呼んできたものは、 実は、自己確認のことだ。

自分が自分であることの確認だ。

三浦雅士風に言えばこうなる。

「自分を自分であると認めることは、まず自分を一人の他者であると見做し、その他者をさらに自分自身であると見做すことである(メランコリーの水脈)」

 

 

どんなに偉くなっても、みんな、男には、最下級の娼婦を買う可能性がある。そんな恐ろしく寂しい夜があるものだ。

 女にもあるのだろうか?

 オレにはわからないし、あまりわかりたくもない。

 

 

一人の女でずっと満足できたら、本当にどれほど楽かわからない。

だが、そうはいかの金玉なのだ。

 

 

オルガスムはあった方がいいが、なければ生きていけないというものではない。ところが、男のピュッピュッはそれがなくなれば間違いなく人類は滅ぶのである。

 

 

とにかくオレは人妻は誘惑しない。

 →本作で龍氏はこれを繰り返し仰られています。

 

 

ソフトな天皇

 

 

ストリップというのは女の裸を観に行くんじゃなくて、女が人前で恥を脱ぎすてていくその過程を眺めるのだ。

 

 

女なんてどうせみんな生理でしかものを考えられない動物なんだから、『いいかげんさ』が一番大切なんだ、

 

→平成29年のいま、当代の作家がこれを発言しようものなら、大炎上間違いなしのこのワーディング。しかし、小説の中であればできる!

 

 

君はスクエアだなあ。

 

 

 

恋愛関係にある男女が、ふと小さい頃も思い出話をする、何でもないようなことのようだが、ここに大切なことが含まれているのだ。

ーーそういう一見他愛もないことを、絶対に話せそうもない相手もいるのである。

 

あなたの恋人は、あなたに小さい頃のことを語っているだろうか。

そのことが親密度の基準になる。

 

 

 

彼女たちが反乱を起こし、新しい宗教が出現するまでは、オレのような遊び人が一時的に面倒を見るといううれしい状況が出来上がるわけである。

 

 

 

女子大生が処女を捨てにやってくる

 

 

 

『この人の閾(保坂和志)』

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小田原での人との約束時間まで少し時間があったので、大学時代のサークルの友だちと久しぶりに会おうという話。その、きまぐれ感、なんとなくな設定はこの人の小説そのものだ。

 

「ふうん。

三沢君って、昔からけっこうヒューマニスト的なところがあったわよね」

ヒューマニスト的?ぼくは小さく笑っただけだったが、聞いた途端に悲しいような気持ちが起こった。記憶の中の真紀さんといまの真紀さんの違いを感じたのだ。サークルのあの部屋でしゃべっていた頃の真紀さんだったら"ヒューマニスト的"というような安直な言葉は使わないはずだった。

 

 

そういう何でもかんでも十把ひとからげにして雑に結論づけてしまうような週刊誌や新聞記事みたいな言葉を一番嫌っていた、というか敏感だったのが真紀さんで、ぼくは不用意な言葉をずいぶん指摘された。

(→こういうように相手にことを散々悪く、違和感を抱きながらもそういう人間と近接して生きるというのはどうだろうか。会う度に以前とは違う部分を発見しウンザリするんだけれどもそれでも交友関係を続けていく)

 

ぼくが「アル中って、病院に入ると必ず治せるんだけど、退院するとまた戻っちゃうんだって。三ヶ月で戻る人もいるし、三日で戻る人もいるし、十年たって戻る人もいるんだってさ」と言ったときも、真紀さんは「でも、三日で戻るのおと十年たって戻るのは全然意味が違うじゃないか」と言った。

「それは戻るの方にごまかされてるのよ。三日なのか三ヶ月なのか十年なのか、その長さに重点を置けばいいのよ

 

「うちのダンナなんか嬉々として働いちゃってるわ。毎晩終電でも全然平気。むしろ喜んでるみたい」

真紀さんの口調には嫌そうに言っているような感じがあったがぼくは黙っていた。ぼくは真紀さんに同調しないように気をつけた。嬉々として働くタイプはぼくも嫌いだが第三者が調子に乗ってそんなことを言うと怒りだすことだってある

 

 

「なんか言ってた?」

「こんなヤツだ部下にいなくてよかった』とか」

「わからなかったみたい」

ぼくは急に会社で一番嫌いなヤツの顔を思い出した。

 

 

 しかし嬉々として働いているタイプにはそういうくだらない計算はない。

 

ーーと、ぼくは前に何度か考えたことのあるこの考えを、このときもう一度考えた。

「ーーだからあたし、恋愛っていうものにあんまり免疫がなかったから、ダンナと結婚する前のつき合ってた期間は、ーー何て言うの?自分の感情の方に夢中で、あの人のことよくわからなかったのね」 

 

リベロ?小学生でリベロなんかいないだろ?」

いるもん。いますね。六年の高橋君はディフェンダーだけど攻撃参加するんですね」

 

 

「それにニーチェって、一瞬にしてわかるかそうじゃなかったら、ずっとわからないみたいな書き方でしょ?違うのよね。ヘーゲルとかハイデガーなんかの方がねちねちしてていい。 

 

「あたし、いまのあなたの話聞いてて『クジラが魚でないように、コウモリは鳥ではない』っていう構文思い出しちゃった」

 

 

ぼくは少し悲しいような気がした。真紀さんの口を借りて普遍的な母親がしゃべったような気がしたからだ。普遍的な母親というのはぼく自身の母親と言い換えてもいいのだろう。

 

『伸予(高橋揆一郎)』

 

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83年6月が一刷である。

第79回芥川賞受賞作品。

芥川賞に偏差値をつける」という書籍で知った。 

高橋揆一郎。カッコイイ名前。

 

伸予。元女教師。たって戦前は、って話。

30年ぶりに、惚れた教え子と会う。自ら自宅に招いて。

積極的な女である。

 

今だったら、4050のおっさんたちが喜びそうな、性愛憧憬というか設定だ。

自費出版でこういうこと書きたいおっさんたちがごまんといるんだろうな、みたいな印象だけれど、当時は新しかったんだろ見える。

 

 

「おとうさんはね、まじめ一点張り。お酒だって付き合いだけ。わたしが頼んで浮気の一つもしてちょうだいといったぐらい、でも浮気はしなかったみたい」

 

p142 

 

 

「恐れ多くてとても、それにですよ、ぼくはまたあの自分の先生のことを、女学校出たての苦労知らずのお嬢さんの気まぐれかと思ってい」

 

p153

 

 

・女学校三年のとき、学校で戦地慰問の手紙を書かされたのがきっかけになった。

・女学生の手紙は兵隊に人気がある、とりわけ、若い将校に人気があるという離しだった。

 

p183

 

迫る男の頬を夢中で張った

 

p184

 

 

蝉の声が聞こえている。半分だけあげた窓のレースのカーテンがまつわりついていた。善吉のいうままに下のもとを脱ぎ捨てた。「上はいや」と伸予はいった。紺のブラウスを着たまま畳の上に横たわり、半眼になって舟型の天井を見ていた。

 

口を結んで善吉の動きに耐えていると、べつな涙がにじんでくる。やっと、という思いが先に立つ。体がよろこんでいるところはなかった。閉じ込めてしまったものは容易に目をさまさないものかも知れない。体中に力をこめてしがみついてた。

 

p205 

 

 

けっきょくのところ過去というものはなにやら宗教みたいなものかも知れないと思った。ねうちを信じたい人はそれにすがるけれど、それを認めない人にはたいした意味はないのだろう。

 

p224

 

 

 

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『「都市主義」の限界(養老孟司)』

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会社の図書館で見つけた、養老翁の各種コラムや講演原稿を編み直したもの。

 最近、深夜のテレビで養老翁が加藤浩二の質問に答える番組やってて、急いで録画した。この人の話していることは、先達の経験と知恵として胸に留めておくべきことが多いような印象がある。

かつてバカ売れした「バカの壁」も当時読んだ筈だったけど、要点が思い出せない。

 

歴史やジャーナリズムは「起こったこと」を書く。しかし、「起こらなかったこと」は書かない。ゆえに「何かが起こらない」ためには人々が傾注した努力はしばしばなかったものにされてしまうのである。

 p10

 

学生は無意識から意識へ、田舎者から都会人になろうとしていたのだが、大学はむしろ「田舎的なもの」を多く抱えていた。それが大学の「封建的構造」と呼ばれたものだった。p14

 

 

私が巻き込まれた紛争とは、要するに田舎が都市化するときに起こった、一時的な現象だったのである。p16

大学紛争の時代にも「都市対田舎」を明瞭にした政治運動があった。 p18

それを政治的な「左右」主義で見るべきではない。将来の事態を見誤る可能性がある。

 

 

平家物語』が平忠盛、東夷が首を晒したい、とんでもない野蛮な田舎さ p24

 

 

 

日本人は死んだ人の悪口をまずいわない。これも見ようによっては、「歴史の消し方」であろう。死ぬことが不幸なことであるだけに、それに加えて、生き残った者が悪口まで言うことはない。そういう優しい心情から悪口をいわれないものだともとれるが、べつなふうにもとれる。死んだら最後、世間の人ではなくなるのだから、もはや生きている人間の現世の利害に関わりはない。それなら誉めておけばいいという、きわめてドライな態度なのかもしれない。

p45 

 

 

亡くなった胡桃沢耕史氏の直木賞受賞作『黒パン俘虜記』は、その意味で参考になる。ウランバートルの捕虜収容所では、労働がきつくて食物の話である。俺はカツ丼だ、俺はカレーライスだと、思い思いのことをいう。そうした食物を考えてどうするのか。自慰をするというのである。

 生物の雄としては、これはたいへん合理的である。なぜか。食物があれば、個体は生き延びる。生き延びれば、次の種付けの機会を待つことができる。金持ち喧嘩せずである。食物がなければ、できるだけ早い機会に、つまり飢え死にする以前に、生殖の機会をもつ必要がある。つまり食べるか、種付けをするか、そのどちらでもいい。それならそういう限界状況では、食欲と性欲が一致するはずなのである。両者を区別する必要がない。男の脳はそういうふうにできているらしい。

p49

 

 

戦後社会の変革を、私は都市化と定義してきた。

平和とか、民主主義とか、経済の高度成長とか、ありとあらゆる表現もできよう。しかし私が経験してきた社会変化の基本は、要するに都市化である、理科的に表現するなら「脳化」なのである。そうした世界では、人々は自然を排除し、すべてを意識化しようとする。つまり人工化しようとする。

p80

 

 

だから一日に一度は、自然と対面すべきなのである。

日常生活を、むしろ自然によって妨害されるような様式に変えていくべきである。それなら自然について、考えざるをえなくなるからである。この前の日曜日、私は虫撮りに行くはずだった。しかし残念ながら雨が降ったのである。

(二〇〇〇年八月)

 p91

 

 

なぜ老化するかを調べると、じつにさまざまな意見があるとわかる。

ということは、正解がないということであろう。こういう場合、科学の常識では「まだ解答がわかっていない」という。

しかし、これもよくあることだが「質問が悪い」という場合もある。

 

p97

 

 

 (震災のあと  ※ここでいう震災は阪神淡路大震災

オフィスのドアを開けると、ーー彼は非常に几帳面な人なのですがーー部屋のなかがぐちゃぐちゃになっている。その惨状を見た瞬間、彼はかーっと腹が立って、こう叫んだというのです。

「だれがこんなことしやがったんだ!」と。私は笑って思わず「あんたは都会人だね」といったのですが、要するに地震だということがわかっているのにこういう反応をしてしまう。「先生、まだ腹の虫はおさまりません。こうなった以上は天皇陛下にやめてもらうしかありませんな」と、こうですから。

 

p132

 

 

ちょっとお考えいただきたいのですが、現在仏教国はどこにあるでしょうか。日本、モンゴル、チベット、ネパール、ブータンミャンマー、タイ、カンボジアラオス、ヴェトナム、スリランカです。世界地図を見るともののみごとにわかりますが、インドと中国という仏教の本家本元で仏教はきれいになくなり、残っているのは完全にその周辺だけです。

 ですから、仏教は都市宗教ではなく、自然宗教だと私は考えます。自然宗教は当たり前の話ですが、自然が残った地域に残ったのです。

 

p135

 

 

そもそも妊娠中絶が日本で「倫理」問題になったことは、世間の本音としては一度もない。それを私は確信している。胎児は母親の一部で、ゆえに母親の一部で、ゆえに親の処分に任されている。それが延長されれば母子心中となり、挙げ句の果ては、保険金のために息子に死んでもらうという同意になる。

ーー

それは外国の意見だけを顧慮した、一種の鹿鳴館政治に過ぎない。

 

 p152

 

 

肝心のことを隠そうとすると、人はしばしば饒舌になる。

それは警察官がよく知っていることである。

 

p200

 

 

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『死んでしまう系のぼくらに(最果タヒ)』

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思春期に読んだらやばい系だったわー

30過ぎても、ぐっとくる言葉たち。

 

 

詩の批評ってほんとに難しい(もちろん短歌よりも)。

共通理解や前提が少ないからだろうか。

個々が描いた風景について、おそるおそる語るしかないのだ。

 

意識される、死と他人の目。

キラリと光る、数行が、この詩人の歌集にはあった。

 

 

大切なものが死んだあとの大地はすこし甘い匂いがする

ベランダにあったはずの蝉の死骸がなくなっていて

生き返ったのかなとご飯を食べながら平然と思う

ーーー

ーーー

ーーー

(線香の詩)

 

 

 

私達のこのセンチメンタルな痛みが、疼きが、

どうかただの性欲だなんて呼ばれませんように。

昔、本で読んだ憂鬱という文字で、かたどられますように。

ーーー

ーーー

ーーー

(文庫の詩)

 

 

 

ーーー

ーーー

だれでもいいような世界にでていくのだから、だれでもいいような気持ちで愛を語ってごらんって。名言だ。大好き。

きみは別の子と手をつないで楽しそうだね。思う

ーーー

ーーー

愛について語れるぐらい、最低になりたいな。

寿命で死ぬのはブスって、きみに言われて生きたい。

 

(渋谷)

 

 

 

 

 

女の子の気持ちを代弁する音楽だなんて全部、死んでほしい。

いろとりどりの花が、腐って香水になっていく。

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愛について語れるぐらい、最低になりたいな。

死ぬな、生きろ、都合のいい愛という言葉を使い果たせ。

 

 

(香水の詩)

 

 

 

 

 

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女の子を侮辱しよう。

おまえらは悪魔だと侮辱しよう。

いつか泥まみれになって、泥を産んでそれをひっしで人間にしようと、あがくんだろう。と笑おう。

 

 

(骨の窪地)

 

 

君は犬みたいに信じて待つけれど

 

 

好きだった音楽をきいて心が爆発しなくなったら、

私の思春期はつまらない生命維持装置の心臓に

殺されたってことだろう。

恋のような苛立ちや焦りが、結局は性欲だったこと、

ただの大音量に本能で反応していたこと。知っていたよ。

私のスカートの下には肌がある。それは猫や犬と同じよ。

 

 

(スピーカーの詩)

 

 

 

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愛してほしいというのは暴力だ、だから抱きしめたいと言ってみる。欲情でかたったほうがむしろ、信じられるって、言っていたのはどこの誰だっけ。だれも好きにならないで、そのまま結婚して子どもを産んで、死ぬ人生は、おだやかで幸福感に満ちていた。

 

 

(教室)

 

 

 

言葉も、情報を伝える為だけに存在するわけじゃない。

意味の為だけに存在する言葉は、ときどき暴力的に私達と意味付けする。その人だけのもやもやとした感情に、名前をつけること、それは、他人が決めてきた枠に無理矢理自分の感情をおしこめることで、その人だけのとげとげした部分は切り落とされ、皆が知っている「孤独」だとか「好き」だとかそういう簡単な気持ちに言い換えられる。

けれど、それは本当に、その名前のとおりの気持ちだったんだろうか。いつのまにか忘れてしまう。恋なんて言葉がなくても、私はそれを恋だと思っただろうか?

 

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言葉が想像以上に自由で、そして不自由なひとのためにあることを、伝えたかった。私の言葉なんて、知らなくていいから、あなたの言葉があなたの中にあることを、知ってほしかった。

それで一緒に話したかったんです。

そんなかんじです。またいつか、お会いできたら嬉しいです。

ありがとう。

 

(あとがき)

 

 

 

 

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