『暗室(吉行淳之介)』
孤独と性愛の調べ。
最小限の、引用に留める。
曖昧なものに一応具体的な形を与えておきたかった。
ときには際どい冗談を言い合う仲だが
津野木との間には、危険なものが沢山ある。
「いけないね、人生にたいしてそんなに消極的になってはいけない」そういう分別臭い言葉が、
しかし、その後の私の振舞は、演技になった。タエの軀を取り扱ったときの手慣れた自分の手つきを思い出し、それをなぞりながら、すぐに掌をマキの胸に当てた。布片で包まれた乳房を揉みほぐすようにしながら、
「電話に出ろ、というの。そして、あたしの上で、わざと強く軀を動かすの」
私の電話する相手は夏枝になったり、多加子になったりする。
妻に死なれて、愛人2人とかバーで知り合ったレズビアンの女とか、コールガールとか
「あたし、どんな顔したの」
「若い娘に化けていた猫だがな、夜中に正体をあらわして、行灯の油をぺろぺろ舐めているのを見つけられたような顔だ」
ただし、その奥のこととなると、極めて深いところに「娼婦願望」とでもいうものが潜んでいる女が多い、と私は見ている。