『見過ごされてきたもの』(2016年11月17日付 朝日新聞)』
社会について語る場面では、真実を口にしていたのはトランプ氏の方でした。
彼は「アメリカはうまくいっていない」と云いました。ほんとうのことです。「米国はもはや世界から尊敬されていない」とも言いました。彼は同盟国がもうついてこなくなっている真実を語ったのです。
クリントン氏は、仏週刊誌シャルリー・エブドでのテロ後に「私はシャルリー」と言っていた人たちを思い出させます。自分の社会は素晴らしくて、並外れた価値観を持っていると言っていた人たちです。それは現実から完全に遊離した信仰告白に過ぎないのです。
トランプ氏選出で米国と世界は現実に戻ったのです。幻想に浸っているより、現実に戻った方が諸問題の対処は容易です。
民主主義という言葉は今日、いささか奇妙です。それにこだわる人はポピュリズムを非難します。でも、その人たちの方が、実は寡頭制の代表者ではないでしょうか。大衆層が自分たちの声を聞かせようとして、ある候補を押し上げる。それをポピュリズムといってすませるわけにはいきません。
人々の不安や意思の表明をポピュリズムというのはもうやめましょう。
自立やフェア(公正)であることを好み、大きな連邦政府による再分配やアンフェア(不公正)を嫌う。思想的、宗教的な深い部分に根ざす感覚です。