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ここがパンチライン!(本とか映画、そんでときどき新聞の)

いま、物語で大事なのはあらすじではない。そこで語られている言葉とリアリティだっ!!ということで、卑怯で弱い人間を愛したい。人間の野蛮さ、愚劣さから目を背けたりしたくない。おのれ自身の端緒(根っこ)が絶えず更新されてゆくそんな経験をする、そのための記録。大江健三郎と吉田修一と。三島と太宰と。村上春樹と中村文則、小島信夫と舞城王太郎。カズオイシグロにミシェル・ウェルベック。カーヴァーとチャンドラー、ブコウスキーにキューブリック。コッポラにデビット・フィンチャー。ウディ・アレンもケヴィンスペイシーも。談志だって

『細雪(中)』

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こいさん(末の妹 妙子)をメインにした巻ですね。

 

奥畑の啓坊の花柳界遊びの噂。妙子洋行の目論み。

大水で九死に一生。英雄板倉の妙子救出。

啓坊への不信と板倉への気持ち。

男の入院、脱疽、死。

と要点書き出すと、なんのことはないつまらなさですが。

船場の上流階級による、(というより谷崎本人の)隠せぬ特権意識とブルジョワ価値。

 

この青年が妙子の将来の夫たることを既に公然と認められているような口の利き方をするのに、軽い反感と滑稽とを覚えながら聞いていた。奥畑のつもりでは、自分がこのことをお願いに上ったと云えば、大いに幸子から同情もされ、打ち明けた相談もして貰えるものと思い込み、巧く行けば貞之助にも紹介して貰えるものと期待して、わざと今頃の時間を狙って来たのであるらしく、

 

 

尤も今から八九年前、始めて啓ちゃんを恋した頃には、自分はまだ思慮の足りない小娘であったから、実は啓ちゃんがこんな下らない人間であるとは知らなかった訳であるが、しかし恋愛と云うものは、相手の男が見込みがあるからとか、下らないからとか云うことのみで、成り立ったり破れたりするものではあるまい、

 

 

夏の間に思いきり葉を繁らした栴檀と青桐とが暑苦しそうな枝をひろげ、芝生が一面に濃い緑の毛氈を展べている景色は、彼女が先日東京へ立って行った当時と大した変わりはないのであるが、それでも幾分か日差しが弱くなり、 仄かながら爽涼の気が流れている中に、何処からか木犀の匂が漂うて来たりして、さすがにこの辺にも秋の忍び寄ったことが感じられる。

 

妙子は前に一度事件を起こしたことがあり、自分や雪子とはちょっと心臓の打ち方の違ったところがある妹なので、まあ、露骨に云えば、全幅的には信用していない点があった。

 

なぜと云って、板倉の英雄的行動には最初から目的があったのだ。あの狡猾な男が、何か偉大なる報酬を予想することなしにああ云う危険を冒す筈がない。

 

 

彼が埒を越えない限り、此方も知って知らん顔していたらよい

 

 

よく云えば近代的、と云えるところがったのであるが、その傾向が近頃妙な具合に変貌して、不作法な柄の悪い言語動作をちらつかせるようになった。人に肌を見せることは可なり平気で、女中達のいる所でも、帯ひろ裸の浴衣がけで扇風機にかかったり、湯から上がって長屋のおかみさんような恰好でいたりすることは珍しくない。

 

 

未来の妻のためにズボンを汚すことさえも厭う軽薄さを見せては、すっかり望みを失ったのであった。

 

 

こいさんはそう云うけれども、私達が話してみた具合では、つまらないことを偉がったり自慢したりする癖があって非常に単純で、低級のように思われるし、趣味とか教養とか云う方面も、成っていないように感じられる。

 

 

 彼と妙子とを正式に結婚させる分には、さきざきどんなに困るようなことがあるにしても、さしあたって世間の手前は悪くないが、妙子が板倉と自由結婚すると云うことになれば、これは明かに、社会的に嘲笑を招くであろう。

 

 

 

襖を開けると、雪子が縁側に立て膝をして、妙子に足の爪を剪って貰っていた。

「幸子は」

 と云うと、

「中姉ちゃん桑山さんまで行かはりました。もう直ぐ帰らはりますやろ」

 と、妙子が云う暇に、雪子はそっと足の甲を裾の中に入れて居ずまいを直した。

貞之助は、そこらに散らばっているキラキラ光る爪の屑を、妙子がスカートの膝をつきながら一つ一つ掌の中に拾い集めている有様をちらと見ただけで、又襖を締めたが、その一瞬間の、姉と妹の美しい情景が長く印象に残っていた。そして、この姉妹たちは、意見の相違は相違として、めったに仲違などはしないのだと云うことを、改めて教えられたような気がした。

 

 

(板倉の死に際して)

自分の肉親の妹が、氏も素性も分からぬ丁稚上がりの青年の妻になろうとしている事件が、こういう風な、予想もしなかった自然的方法で、自分に都合良く解決しそうになったころを思うと、正直のところ、有り難い、と云う気持ちが先に立つのを如何とも制しようがなかった。

 

 

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