文芸時評:磯崎憲一郎(朝日新聞 5/30、6/27)
文体とは何か
「うつくしい文章とか気の利いた表現といったことではなく、日本語の並べ方そのもの」
登場人物の人生観を端的に言い表す台詞でもなく、ただひたすらに、目の前の一文の、語の選択と配置、という問題なのだ。
作中の所々で、書き手の意図を超えて一つの言葉が次の言葉を生む、小説の自己生成が起こっているようにも感じる。
かつては少ないながらも海外小説や文庫の古典が並べられていた売り場を、売上ランキング上位の小説とダイエット本と付録付き女性誌に明け渡してしまった結果、街の書店の地位はコンビニとネット通販と情報サイトに取って代わられた、というのが本当の所ではないか?つまり「文化拠点」が衰退しているのではなく、「文化拠点」である事を自ら放棄した必然として、書店は減少の一途を辿っているように見えて仕方がない。